日常生活用具制度による障害者に対するパソコン給付に関する声明

2001年7月9日

お問い合わせ先
Network Accessibility Project (NAP) 代表
中根雅文
E-Mail: max@accessibility.org


複数の新聞報道によると、福島県福島市で、厚生労働省の日常生活用 具制度でワープロの給付を受けられる制度を利用して、障害者が同等額のパソ コンの給付を受けたことについて、厚生労働省障害福祉課が「パソコンはワープロ 機能のほかにも多くの機能を持ち、障害を補う目的に沿う用具ではない。」 (朝日新聞の記事より引用)と説明しているとのことである。

この件について Network Accessibility Project (NAP)は、以下の点で憂慮を 禁じえない。

障害を補う道具ではないパソコン

補われるべき障害は個々の状況によって異なるもので、障害を補うた めに適切な用具も個々の状況に応じて選定する必要がある。ワープロの給付を 受けることで十分に障害が補われる場合もあると考えられるが、パソコンでな ければ障害を補うことができない場合も多い。

したがって、個人の障害の状況に応じてニーズを判断し、最も適切な 用具の給付を実現できるような制度の改革や、現行制度の柔軟な運用が強く求 められる。

IT化推進の流れに反した方針

今日の社会において、パソコンを初めとした通信機能を持つ情報機器 やそれらが接続されているインターネットは、多くの人の日常生活に浸透して きている。このようなIT社会の中で、情報通信技術を利用できないことによっ て不利益を受ける人が生まれてしまう digital divide の問題も取りざたされ ている。また、社会のIT化が進むことで、障害者が情報通信技術を用いてこ れまでと比較してより積極的な社会参加が可能になっているという事実もある。 こういった状況において情報通信技術を利用できないことは、新たな「社会的 障害」をもたらす結果となることは明白である。このような障害を補うことは、 日常生活用具制度の趣旨に何ら反するものではなく、積極的な取り組みが望ま れる分野である。 さらに、「社会的障害」を持つ人の増加は、社会全体にとって大きな損失であり、これを軽減するための積極的な取り組みを行うことは、政府などの公共団体の果たすべき責務である。

また、IT社会の実現は政府が積極的な取り組みを行っている事項であり、報 道にあるような動きはこの施策に逆行するものである。このような方針が維持 されれば、社会のIT化から取り残される人々が生まれ、政府による政策の意 義が激減してしまうことにつながる。

よって、IT社会実現へ向けた施策の一環として、障害者の情報技術利用の促進にもつながる 形での給付制度の見直しが強く求められる。


朝日新聞による報道:
「障害者がパソコン買ったら始末書 福島市」
(2001年7月5日、朝刊13版第2社会面)
読売新聞による報道:
「福島市、パソコン購入の障害者作業所に反省文書かせる」
(2001年7月5日、夕刊都内版18ページ)

Network Accessibility Project (NAP)について

Network Accessibility Project (NAP)は1998年に設立された任意団体で、 障害者を含む全ての人々がコンピュータネッ トワークを利用できるようにする上で解決が必要な、技術的・社会的問題を明 らかにし、解決へむけた取り組みを行うことを目的としています。 NAPの特徴の一つは、研究者・開発者や障害 を持つ利用者といった枠組みや、障害の種別を超えた形での協調を目指してい る点にあります。主な活動としては、アクセシビリティに関連する事項をテー マとした勉強会の企画や、メーリングリストを用いた情報・意見交換が挙げら れます。詳しくは NAPのホームページ (http://www.accessibility.org/)をご覧ください。