盲学校における情報処理教育改善のための提案 -- 視覚障害者の自立
と社会参加を助ける情報処理能力の習得へ向けて --
発表の概要
- 自己紹介
- 視覚障害者とコンピュータ -- その意義と歴史 --
- 視覚障害者のコンピュータ利用方法について
- 盲学校における情報処理教育の現状と問題
- 効果的な情報処理教育の実現へ向けた提案
自己紹介
- 愛知県立岡崎盲学校小学部卒
- 筑波大学附属盲学校中学部・高等部卒業
- 東京外語大学アラビア語学科中退
- 慶應義塾大学環境情報学部卒業後、同大学院政策・メディア研究科
修士課程修了
- World Wide Web Consortium (W3C) --- WWW関連技術を普及・促進
するための国際組織のスタッフ
- 障害者とコンピュータに関する研究および活動
- その他、コンピュータ関連の開発・研究活動
私とコンピュータ
- そもそも機械が好き -- 小学生の頃、知り合いのパソコンで遊ぶ
- 高校時代のアメリカ留学中 (1988年 8月から翌 6月、統合教育) 、コンピュー
タを使って独力で提出課題の作成をする視覚障害者と出会い、自身もコン
ピュータの利用を開始
- 大学入学までの間に、独学で多少のプログラミングを学ぶ
- 大学入学と同時にパソコン通信を始める
- インターネットに大きな可能性を感じる
視覚障害者のコンピュータ利用の意義
- 情報取得のための道具
- 各自に適した形式での情報の提示が可能
- 容易な検索による時間の短縮や視覚への負担の軽減
- 紙メディアで提供される情報の代替となりうる -- 小スペース
化の可能性
- 光学的文字認識 (OCR) による墨字文書の独力での処理
- 墨字文書作成のための道具
- コミュニケーションのための道具
- 電子メールや World Wide Web によるコミュニケーションの幅
の拡大
- 晴眼者との情報共有 -- 社会参加の機会の増大
自立と社会参加のための道具
社会に出る前に身に付けておきたい技術。
視覚障害者のコンピュータ利用の歴史
- 1970年代後半
- アメリカを中心に、障害者のコンピュータ利用へ向けた取り組みが
始まる。
- 1980年代前半
- アメリカでの取り組みが活発となる。日本でも徐々に注目されるよ
うになる。 (アメリカでは Apple, 日本では PC8801など)
- 1980年代半ば以降
- アメリカでは学校へのコンピュータの積極的な導入が始まり、それ
に伴って視覚障害者向け技術も急速に発展 (Apple から IBMへ)
- 1980年代後半
- 欧米では視覚障害者の利用者が増加し、日本でも実用レベルのシス
テムが実現される。
- 1990年代前半
- 欧米ではコンピュータを利用する視覚障害者が急増。日本でも、利
用者が徐々に増加。 (MS-DOS全盛期)
- 1994年
- 商用インターネットサービスの開始にともない、日本でもインター
ネットの利用者の増加が始まる。この頃から、視覚障害者のコンピュータ
利用者の増加も大きくなり始める。
- 1995年
- Microsoftが Windows95 を発売、一般へのコンピュータの普及が加
速する。 (MS-DOSから Windowsの時代へ)
- 1999年
- Iモードのサービス開始にともない、インターネット利用者数が急
増。視覚障害者のコンピュータ利用者も増大する。
アクセシビリティ確立へ向けた動き
アクセシビリティとは、誰もがほぼ同じコストでほぼ同じ量
の情報を得たり、ほぼ同じ量の作業を実行できることである。
- インターネット上で提供される情報のアクセシビリティを向上させ
るための取り組み
- コンピュータシステムのアクセシビリティを改善する取り組み
視覚障害者のためのコンピュータ技術とその特徴
- 音声出力
- 直線性 -- 画面 (2時限) の情報が読み上げられ、 1時限の情
報になる
- 揮発性 -- 一度読み上げられた情報を自動的に再度取得するこ
とはできない。
- 点字ディスプレイ
- 断片的 -- 画面全体を一度に表示することができない
- 非即時的 -- 画面上の変化をリアルタイムに認識できない
- 拡大表示
盲学校における情報処理教育に関する現状調査
- 1999年 11月実施
- 全国の盲学校が対象 (68校に発送)
- 33校の 69人から回答
- 30校 (91%) で何らかの情報処理教育を実施
視覚障害者の情報処理技術習得の過程
- キーボード操作の習得
- 特定の単一アプリケーションのみを利用する目的でコンピュータを
使用する
- 複数のアプリケーションを目的に応じて使い分ける
- 漢字仮名混じり文の作成能力の習得
- 自分に適した画面出力方法とその確認方法を確立する
- OSの基本的な操作を行う
- 利用したことのないアプリケーションを独力で導入、利用する
アンケート結果 (1)
情報処理技術の習得状況
|
盲学校在学中に習得すべきだ
と考える技術 |
実際に平均的な生徒が習得で
きる技術 |
人数 |
割合 (%) |
人数 |
割合 (%) |
キーボードの操作 |
45 |
100 |
39 |
87 |
単一アプリケーション利用 |
17 |
38 |
26 |
58 |
複数アプリケーション利用 |
29 |
64 |
14 |
31 |
漢字仮名混じりの文書作成 |
41 |
91 |
29 |
64 |
自分に適した画面出力の確認方法の確立 |
39 |
87 |
12 |
27 |
OSの基本操作 |
24 |
53 |
8 |
18 |
新規アプリケーションを独力で利用 |
7 |
16 |
0 |
0 |
アンケート結果 (2)
視覚障害者の情報処理教育において重要だと考えられること
- 有効回答数
- 42
|
人数 |
割合 (%) |
指導者向けの分かりやすいソフトウェアのマニュアル |
18 |
43 |
実際にコンピュータを効果的に活用している視覚障害者の経験を聞くこと |
29 |
69 |
視覚障害者と同じ環境でのコンピュータの利用体験 |
18 |
43 |
ソフトウェアの利用法などの講習を受けること |
13 |
31 |
視覚障害者が利用している入出力方式に関する正しい理解 |
26 |
62 |
効果的なカリキュラムの例 |
14 |
33 |
その他 |
3 |
7 |
アンケート結果 (3)
学びたい事項
- 回答数
- 38
|
人数 |
割合 (%) |
スクリーンリーダー・拡大ソフトおよび関連ハードウェアに関する最新動向 |
7 |
18 |
スクリーンリーダー、拡大ソフトおよび関連ハードウェアの使用方法およびその指導方法 |
10 |
26 |
視覚障害者のインターネット利用方法およびその指導方法 |
3 |
8 |
Windows上でのソフトウェアの使用方法およびその指導方法 |
13 |
34 |
キーボードのみを用いた Windowsの利用方法 |
3 |
8 |
視覚障害者向け情報教育の実践例 |
6 |
16 |
個々のニーズに合わせたコンピュータ使用環境の構築方法 |
4 |
11 |
実際にコンピュータを利用している視覚障害者の利用方法や利用状況 |
3 |
8 |
弱視生の指導方法 |
1 |
3 |
フルキー入力の指導方法 |
1 |
3 |
プログラミングの指導方法 |
1 |
3 |
視覚障害者が使用する環境を実際に使用する体験 |
1 |
3 |
情報教育に関する技術や今後の展望 |
2 |
5 |
現状・問題点の整理
- 必ずしも十分な技術の習得ができていない
- 教育方法が確立されていない
- 指導に必要な情報の不足
- 視覚障害者の情報取得に関するより深い理解が必要
状況の改善へ向けて
- 学校と卒業生などのコミュニケーションの強化
- 必要な概念を学ぶための機会の提供
- ユーザ・教員・開発者が一体となってよりよい環境実現へ向けて行動できる状態作り
発表資料
- http://www.accessibility.org/~max/talks/200008-viep/
- max@wide.ad.jp