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: 盲学校における情報処理教育に関する アンケート調査結果報告書 : 3. 考察


4. まとめ

ここまでで見てきたように、盲学校における情報教育に関する問題は、視覚障害 者向けのコンピュータ関連技術などに対する指導者のよりよい理解によって改善 することができると考えられる。ここでは、視覚障害者向けの情報教育の改善へ向けて必要と考えられる事項について、私の考えを述べる。

以下に挙げるような取り組みを実施することに より、指導者の理解を向上させ、視覚障害者向けの情報教育を改善することがで きるのではないだろうか。

  1. 盲学校の教員が、視覚障害を持つコンピュータの利用者と積極的な情報 交換を行う。
  2. 情報教育担当者の技術に対する理解を向上させるための研修などを実施 する。

4.1 指導者と利用者の情報交換

実際にコンピュータを日常的に利用している視覚障害者との情報交換は、視覚 障害者を対象とした情報教育において非常に重要である。視覚障害者向けの技 術に限らず、コンピュータ関連の技術は日々変化しており、最新の技術を用い ることによって、視覚障害者のコンピュータ利用環境が改善される可能性があ るだけでなく、常に最新の動向に注目することで、今後視覚障害者が直面する 可能性がある問題に対する理解を深め、対策を進めることも可能となる。また、 既存のソフトウェアなどによる環境構築の具体的な方法や、特定の目的の達成 のための効果的なソフトウェアの組み合わせというような情報を彼らから得る ことができれば、効果的で実用的な環境を構築し、指導に役立てることができ る。さらに、情報教育担当者のうち視覚障害を持つ者を除けば、彼らが日常的 にコンピュータを用いている視覚障害者と比較して実用的な知識を持つことは 難しいだろう。その意味でも、実際にコンピュータを利用している視覚障害者 との積極的な情報交換は非常に有意義である。

正確な統計資料は存在しないが、国内の視覚障害を持つコンピュータ利用者数 は、1万人程度といわれており、各盲学校がそれぞれの学校の卒業生の中から コンピュータを積極的に利用している者を探すことは比較的容易であると考え られる。また、インターネット上には視覚障害を持つコンピュータの利用者の グループなども存在し、意欲的に情報収集を行うことで、情報教育に役立つ情 報を得ることは可能である。他校の情報教育担当者との情報交換も有意義であ るが、利用者との情報交換はさらに価値の高いものである。

4.2 指導者の育成

利用者との情報のやりとりにより、実際のソフトウェアなどの利用に関する有用 な情報の取得が可能になる。しかし、同時に指導者は視覚障害者の情報取得に関 する概念などについて、適切な理解をしている必要がある。このような知識を持っ ていなければ、利用者から得られた情報も、時間がたって古くなってしまえば役 に立たないものになってしまう。視覚障害者向けのコンピュータ関連技術につい て正しく理解することで、利用者から得た情報を効果的に利用することができる だろう。すなわち、利用者から得た情報について、多少その情報が古くなってし まった後でも、その情報を基に類似の問題を解決することが可能になるような場 合もあるだろう。また、盲学校で基礎的な能力を習得させ、応用のための能力に 結びつけるためには、視覚障害者向けの技術に関する理解は非常に重要である。 このような観点から、視覚障害者がコンピュータを利用する際に用いる技術につ いての理解は指導者にとって不可欠のものである。

指導者が理解するべき内容としては、以下の事項を挙げることができる。

  1. 晴眼者と視覚障害者の情報取得方法に関する相違点

    視覚障害者の場合には、画面の鳥瞰図を取得できないために、情報取得方法が晴 眼者が画面を見て情報を得るのとは根本的に異なっている。そのため、情 報取得に要するコストに差が生じ、アクセシビリティが低い形で情報を受 信する結果になる。このことを理解し、正しく情報を処理する能力を習得 させるための指導を行う必要がある。

  2. 情報のやりとりの方法に関する相違点

    基本的に現在用いられているコンピュータは晴眼者を対象として設計されている。視覚障害者がこのようなシ ステムを用いて情報を取得する場合、晴眼者との情報取得方法に相違があるため、この相違を補う仕組みが必要である。その役割を担っているのがスクリーンリーダーで ある。現在のコンピュータシステムでは、晴眼者と視覚障害者の間でコミュ ニケーションの形が異なっていることを理解し、そのような観点でスクリー ンリーダーの機能について認識した上で、スクリーンリーダーの操作方法な どの指導を行う必要がある。

  3. 視覚障害の状態に適した環境構築方法

    視覚障害の状態は、一人一人異なるものである。特に弱視者の場合、単純 に画面表示の拡大を行えばよいというものではなく、個々の状態に合わせ て音声出力を併用するなどの方法を用いる必要がある。拡大表示によって、 画面上に表示されている内容を読みとることはできても、画面全体の内容 を把握できているのかどうか、読みとりに要する時間はどの程度であるか といった要素により、その利用者にとって最適な画面確認方法を考える必 要がある。つまり、画面に表示されている内容を読みとることができるだ けでは不十分で、情報取得に必要となる時間や目にかかる負担を最低限に 抑えられる方法を習得させなければならない。全盲者の場合も、点字を読 む能力などの要素を客観的に判断し、音声および点字出力の最適な組み合 わせを個々に検討することが重要である。結果として、指導者は視覚障害 者が自分に適した画面情報の取得方法を確立することを支援できなければ ならない。

指導者が以上のような知識を持つことにより、視覚障害者は盲学校在学中に将来 に渡って有効な能力を獲得することができるだろう。今後盲学校における情報教 育の意義がますます大きくなっていく中で、上に挙げたような知識を持つ有能な 指導者の必要性も増大する。しかし、このような知識を指導者が独学で得ること は容易ではないだろう。そのような点を考えると、指導者を育成するための積極 的な取り組みが必要である。



中根雅文